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・Fais bon voyage!(二次創作)

※この小説は、やぐり睦九(@_yagri)さん宅の創作の皆さまをお借りした

 二次創作小説です。

※『Dirt or not Dirt 11』『KQ15のとりとめのない話+5』までのご創作の内容を含みます。

​その1.旅立ちは突然に&札幌編

 4月9日、金曜日。おやつどきを迎えようかという蒲田西口商店街の真ん中で、ハンドベルが派手に振り鳴らされた。

「おめでとうございます!特等の北海道行きペアチケットですよ!」

係員の青年は満面の笑みを浮かべ、抽選の列に並ぶ人々からは盛大な祝福の拍手が送られた。

「……京急の、お前は2等のやつが欲しいとか言ってたような……(※小声)」

「そうだ、オレは2等の北海道グルメお取り寄せセットが欲しかった……(※小声)」

「辞退できるような空気じゃないな……(※小声)」

特等をドンピシャリ、当てた二人組は何故か浮かない顔で、コソコソと話し込んでいる。

彼らは気が付いていない様子だが、背後からそっと忍び寄る影が2つ、あった。

「コングラチュレーション!!!あんたたちは幸運だねえ!!!」

急に聞き覚えのある声が大音量で耳に入り、京急本線と国道15号は飛び上がった。

おそるおそる振り返ると、愉快でたまらない、といった表情の国道20号と、真顔で拍手している

京急空港線。

「……20号、まさかお前サンロードの商工会と……」

「私がクジに細工をするわけがないだろ、普通に当たった方が万倍面白い」

「……ですよね~~~」

天を仰ぐ国道15号と混乱しきった様子の京急本線を見て、国道20号は柔らかに微笑んだ。

「私が細工をしなくても特等を取っちまったってことは、運命の女神さまがきっと

 それを望まれたんだろう」

「あんちゃんよかったね(棒)」

「そっかーーーそれなら仕方な……そっかな???そうか???」

異議を唱えようとした国道15号を制して、国道20号はいつのまにやら受け取っていたらしい、

チケットをひらひら振った。

「ちなみにこの航空券は今日からでも使えるみたいだね」

「……???」

パチン。彼女が指を鳴らすと、京急空港線が後ろから肩をガッチリ固めてきた。

「何を……」

次の瞬間、景色は蒲田の駅前から羽田空港第2ビルへと変わった。

「……20号……サン……?」

「手続きはしておいたよ」

手渡されたのは新千歳行きのチケット、2枚。

「今から……行けと???」

「「コングラチュレーション」」

手荷物検査の列に押し流されながら、京急本線と国道15号は確かに、彼女たちがニヤリと笑む

ところを見た。

「覚えてろよ!!!」

果たしてその声は届いたのか、どうか。

次の人波がドッと寄せてきて、ふたりは列の先へ先へと送られていった。

 

 ☆☆☆

「そろそろ離陸するころかねえ」

第2ビルの屋上で、国道20号が空を見上げながらのんびりと言った。

「確かAIR DOでしたよね」

「そう。……どんな色の飛行機だったかな、白いやつ?」

北へと向かう飛行機は確か、

「『北海道の翼』なら、白地に黄色と水色の線が入っている機体ですね」

「⁈」

青い帽子に青い服、幾何学めいた滑走路の翼。

ふわりと領巾を翻して。

羽田空港が、立っていた。

 

「ふふ、京急さん、そんなに驚くことないのに」

ニコニコと笑う様子を見て、京急空港線は溜息をついた。

「……貴方がいきなり出てくるからですよ」

「ここは私の敷地ですもの。どこに現れてもおかしくないでしょう」

む、と口ごもる空港線の頬を、国道20号がツンツンと突いた。

「ここの空港かい?」

「よく分かったね?」

「私の周りには空港が結構あるんだよ」

調布、立川、横田、松本、と彼女は指を折った。

「はじめまして。私は国道20号」

「羽田空港、正式には東京国際空港です。貴女のお噂はかねがね」

「ああ、私も『よく知っている』よ」

国道20号もニコリと笑った。

「あんたとはいつか一杯やりたいものだ」

「そうですね。いずれ、鳥のお話を」

薄く滲んだような春の空に、一つまた一つと飛行機が舞い上がっていく。

「あ、あんちゃんたちのだ」

空を見た。翼の端が日を浴びて、キラキラと光っている。

ああ、今日は本当にいい天気だ。

 

 ☆☆☆

「あっという間だったな……」

「一時間半ほどで着いてしまったな、京急の」

「ああ、オニオンスープが美味しかった」

「なぜその文脈で出てくるのか分からないが、美味しかったな……」

「実はオレ、機内販売でオニオンスープの箱を買ってしまった」

「オレもだ」

夕刻の新千歳空港で、二人組の男性が歩いている。

青い帽子を被った一人は懐から小さい箱を取り出しては仕舞い、取り出しては仕舞いしながら嬉しそうな顔をしており、もう一人はしっかりと白い熊のぬいぐるみを抱えていた。

「何がなんだか分からないが、とにかく北海道だ」

「そうだな。……これからどうする?どこかに行くか?」

「ええ~~~……オレ、旭山動物園とラベンダー畑と宗谷岬と知床と函館に行きた~い」

楽しそうに話す二人組の後ろに、忍び寄る青い影が一つ、あった。

「まずはどこに行こうか……宗谷岬って1時間くらいで行けるかな?」

「ちょっと待った———ッ!」

「⁈」

振り返ると、すぐそこに、真剣な眼差しで迫ってくる顔、が。

「ひょええええ⁈」

「君たち!北海道の広さをナメているよ!!!」

青い装束に光り輝く三叉の翼。新千歳空港は、二人……国道15号と京急本線の手を掴んで

猛烈な勢いで進み始めた。

「ちょっと待って!ちょっと待ってください!」

「広いと言ったって……県一つぶんだろ⁈」

急制動。

「県一つぶん?」

指した先には「新千歳空港駅」という文字と、大きな地図があった。

「北海道と本州の大きさを比較」という、大きな大きな地図が。

「札幌から旭川までは、鉄道で約1時間半」

「札幌から富良野までは、鉄道で約2時間」

「札幌から稚内までは、鉄道で約5時間。空路は日2往復」

「札幌から知床斜里までは、空路を使っても最短で約5時間」

「そして、札幌から函館までは、鉄道で約4時間だッ!!!」

そう。北海道は。

「え……?」

「もしかして……めちゃくちゃ広い……?」

「ここがどこだと思っているんだい!『でっかいどー』、だよ?」

とても広い、のだった。

「察するに、君たちは北海道に初めて来たんだろう?」

無言で頷く、二人。

「サイコロの旅じゃないんだから、ゆっくりのんびり巡るべきさ!」

「ハイ……」

「ご忠告、染み入ります……」

しおしおと、項垂れる国道15号と京急本線を見て、新千歳空港は慌てたように手を振った。

「別にね!責めてるわけじゃないんだ。ただ僕ってば、無茶な旅程を組むヒトをたくさん見てきたものだから。少し心配でね」

「そういえばオレたち、旅行ガイドすら持ってないな……」

「あの……空港の中に、本屋さんって……」

新千歳空港はそれを聞いて少し考えると、「ちょっとだけ待ってて」と言いながら改札口の方に歩いていった。そして、すぐに鉄道路線をひとり、連れて戻ってきた。

「こちらはJR北海道の千歳線。」

「やあ!君たち……君たちはどこから来たんだい?」

千歳線は明るく笑いかけてきた。

「オレは東京から神奈川を結ぶ国道の15号」

「で、オレは区間の半分くらい?を15号と並走してる京急本線」

「東京!それは遠くから来たもんだ~」

千歳線はニコニコしながら新千歳空港を突いた。

「で、僕はどうすればいいのかな?」

「国道15号、京急本線。今から千歳線が札幌方面に君たちを連れてってくれます」

「え?」

勢いよく新千歳空港に顔を向ける千歳線に、

「さっき打ち合わせしてたんじゃなかったのか」

と突っ込む京急本線であった。

「いやいやいや。僕は白石までの路線だよ!」

「そこはこう……函館本線に引き継ぐとか、引き継ぐとか、引き継ぐとか」

「そっか~~~そうすればいいか」

何かが決まったらしい。

「これから北海道の鉄道路線と、国道が、君たちを順繰りに案内するわけですよ」

「案内するよ!僕は白石でバトンタッチだけどね!」

千歳線が元気に腕を上げた。

「じゃあ国道15号、京急本線、そこの券売機で切符を買ってね!北海道フリーパスがいいんじゃ

 ないかな!」

勧められるがままに、周遊券を買い足して。新千歳空港に礼を言って、改札を潜り抜けた。

千歳線が笑いながら指すので振り返ると、新千歳空港は楽しそうに手を振っていた。

 

「改めまして、僕はJR北海道の千歳線。沼ノ端から白石までを結ぶ路線だよ。君たちが新千歳空港

 から乗った列車は、僕の支線から本線に入って札幌まで行くんだ」

千歳線は、ドアの上にある路線図を見上げた。

「沿線には、ビールの工場とか、大学とか、……あとは札幌貨物ターミナルもあるなあ」

窓の外には赤と灰色の機関車が、コンテナをたくさん連ねて走っている。

「僕は苫小牧と札幌の短絡ルートなんだよねえ。ほら、室蘭本線は岩見沢の方に行っちゃう

 からさ。函館から来る特急とか、貨物列車は沼ノ端から僕の線路に入ってくるんだ」

「貨物列車……」

「鶴見川を越えた辺りから東海道線を走ってくるやつか」

京急本線が思い出したように言うと、ああ、と国道15号も手を打った。

「あの青かったり赤かったりなやつ。」

「青かったり赤かったり!そうだねえ、少し昔はここにも青いのがいたけれど、今は全部赤いのに

 なったかな。『レッドベア』っていう愛称が付いてるよ」

千歳線はあれが貨物ターミナル、と言った。確かに無数のコンテナが並んでいる。

「貨物列車なら函館本線のが詳しいんじゃないかなあ。そろそろ白石だから、引き継ぐよ」

 

「貨物列車、ですか……そうですね、どこから話すと分かりやすいか」

赤髪の青年は考え込むように手を顔にやった。

「私、通称『山線』と呼ばれていまして。函館から小樽、札幌経由で旭川まで線路が続いている

 のですけれども、文字通り『山』の方を通るので、上り下りが多いんですよ」

青年———函館本線は、路線図の経路をなぞった。

「なので、五稜郭から途中の長万部までは私の線路を通るんですが、貨物列車も特急もそこから『海線』……室蘭本線に入って、なだらかなところを突っ走るわけですね」

先ほどの千歳線の言を思い出すならば、列車は札幌方面に向かって、さらに最短経路を通る

わけだ。

「ただ、貨物列車は北見や富良野からも来るんですよ。そちらからの列車は、私の線路の旭川側を

 通ります。なので、私の全線を走るわけではなくて、両端で走ってるって感じですね」

少々ややこしい話ですが、と言いながら函館本線は少し笑った。

「オレは貨物列車が通らないから、勉強になって助かる」

「オレはコンテナを載せたトラックは通るけど、列車自体の話はよく分からないからやっぱり

 勉強になる」

「そうですか。……それならば、よかった」

「さっぽろ」と駅名の刻まれたホーロー板が過ぎてゆく。札幌に到着したのだ。

 ☆☆☆

 

「さて、ここが札幌駅。北海道の政治・行政・経済の中心:札幌の中心駅です」

函館本線は、人混みを抜けながら、改札へ二人を案内した。

「私、函館本線に所属する駅で、道南、道北、道央、道東、各方面へ向かう列車が集合します。

 位置だけは北海道の中心ではありませんが、他は名実ともに北海道の中心ですね」

「オレ、札幌って北海道のど真ん中にあると思ってた……」

「オレも……」

意外、といったように目を丸くする国道15号と京急本線を優しく見ながら、函館本線は

付け加えた。

「北海道島の中心という意味では富良野駅周辺が真ん中ですかね」

北口を出て、目の前の通りを進む。何本か四つ角を過ぎたあと、一行は左に曲がった。

「こちらが国立大学法人北海道大学、いわゆる『北大』です」

門そのものは機能的な造りだが、覗く限りでは一般の「大学」とは思えないような大通りが走っている。

「ええと……さっきからずっと同じ敷地っぽい生垣が見えるんだが、もしかしてあれ、

 全部北大か?」

京急本線は恐る恐る訪ねた。

「札幌駅からここまでですか?まさか」

「……だよな、大きすぎるよな」

「逆です、逆。札幌駅からここまでだけじゃなく、その反対側まで全部北大です」

「「えええええ」」

目を剥いて驚く二人を前にして、函館本線は少しだけ笑ったようだった。

「北大、広いですよ。このキャンパスの短辺で約500メートル。長辺は2キロ以上ありますから」

「すごいな」

「比較できるもんでもないけどビルキャンとは違うすごさだぜ……」

門からは絶えず、学生や教員、もしかすると近隣の住民と思しき人々が出入りしている。

人の流れを横目にまた歩いていくと、函館本線はある角で曲がった。

「そういえば。この街は、交差点が多いと思いませんか?」

「……言われると、ちょっと進むと四つ角に当たるような気がするな」

国道15号は不思議そうに信号を見上げた。

「そうなんです。札幌の中心部は、碁盤の目のように通りが交差しているんですよ」

つまり、街地がマス目状に区切られているということだ。

「道案内がしやすそうだな」

「交差点の数で案内できるもんな」

また少し、進んで。函館本線は急に立ち止まった。

「……」

(また何か案内をしてくれる感じかな?京急の)

(……オレもそう思ったんだけど、ちょっと様子がおかしいぞ)

心なしか、顔色が少し悪いような……

「迷いました……」

薄青い顔をして、函館本線はそう言った。

「……迷ったってその……」

「……ええと……人生?とか……?」

「道にです!」

スルスルと案内してくれるものだから二人とも(もしかすると三人とも)忘れていたが、

鉄道路線は沿線を外れると道に迷いやすいのであった。

「ああ……」

「数え間違えると逆に分かりにくいっていう……」

何か地図のようなものは持っていなかったか、と探しても、空港で結局ガイドブックを買わずに

来てしまったので何もない。函館本線は当然、持っていない。

「どうしましょう……」

三人で頭を抱えたところに、勢いよく飛び込んでくる者が一人、いた。

「はこだてさ———ん!」

新雪色のマフラーを巻いた道路、国道12号は、函館本線の横に並ぶ見慣れぬ二人を認めると、

ステップを急に止めた。勢いのまま、つんのめりかけた。

「だいじょうぶですか、12号」

「あぶないあぶない、体ごとぶつかってしまうところでした」

「別にぶつかってもいいのに」

「接触するにはちゃんと手が用意してありますからね」

国道12号は一歩下がると、マフラーを後ろに払った。

「珍しいですねはこだてさん、札幌駅からずいぶん離れていますよ」

「……あの、12号。それなんですが。ここ、どこですか」

「北18条駅の東側ですね。交差点で言うと、北18西3・北19西2」

「北18条……ッ……私は札幌駅に戻っているつもりだったのですが……」

出てくる駅名と地名が全く分からないが、どうもずいぶんと遠いところまで出てきてしまったようだった。

「12号、こちらは関東からいらっしゃった国道15号さんと京急本線さんです。札幌を案内して

 いる……いたところだったのですが……」

函館本線は頭を掻いた。

「道に迷ったってことですね」

「そういうことです」

国道12号の視線が一向をぐるりと見渡した。

「えっと。15号さんと京急本線さん。札幌で、どこか行きたいところとか。ありますか」

「……あ。オレ、時計台に行ってみたい」

京急本線が手を挙げた。

「オレは、大通ってところに行ってみたいかな」

国道15号も手を挙げた。

「分かりました。じゃ、15号さん、京急本線さん、はこだてさん、行きましょう」

 ☆☆☆

 

「はこだてさんから鉄道の説明はあったと思いますが、札幌は道路も集合している場所です。

 札幌駅周辺では、国道5号、36号、230号、231号、275号、そして僕、12号の終点・起点が

 あります」

国道12号は歩きながら青看板を指した。川を挟みながら走るこの大路は、国道5号の道路である

らしい。

「……12号、」

「なんでしょう」

「さっきから……オレたちの後ろを付いてきている道路がいるみたいなんだが……」

国道15号が大層気まずそうに言った。

「……ああ。5号ですね」

少し離れた電柱の影に、ビクリと振動が走った。よくよく見ると、電柱の後ろから薄い水色の髪がはみ出している。

「5号」

「ここには何もありません!気のせいです!」

「言ってる時点で『何かある』に僕は全賭けしますよ」

国道12号が電柱に近付くと、白いコートの国道がそろそろと出てきた。

「見ていたの?」

「珍しい国道と鉄道が来ているなあ……って……」

国道5号は小さな声で言った。

「私たちはこれから時計台に向かうんですが。5号は一緒に来ますか?」

函館本線が尋ねると、国道5号はちょっと迷って、あっちを見て、こっちを見て、

「はい」

と言った。

 

「僕は……函館から札幌を結んでいる道路です。少し離れる場所もありますが、大体の区間は

 函館本線と並走しています」

国道5号は鉄道の高架を見上げた。札幌駅のすぐ東側なだけあって、ずいぶんと幅のある橋だ。

ごうごうと音を立てて、端が黄緑色に塗られた列車が通過していった。

「あれは『スーパー白鳥』……じゃなかった、『ライラック』という名前の特急です」

函館本線が付け加えた。

「札幌から旭川まで走る列車です」

高架の下を抜けてしばらく歩くと、逆三角の青看板が見えた。

「ここが北一条橋。僕の終点です。目の前の道路は12号ですが、12号の始点はここではなくて、

 少しだけ西にあります」

国道5号は、すぐ横を歩いている国道12号に視線を送った。

「12号は……札幌から旭川まで続いていて。僕と入れ替わりで、函館本線の横を走ります」

国道12号は視線に気が付いたようで、ひらひらと手を振った。

「目の前にあるのが『大通公園』、いわゆる『大通』です」

国道5号の説明の後を引き取るように、国道12号が続けた。

「『大通』ってあるけれど単純に大きい通り、ってわけではなくて。公園になっています」

「公園だったのか……」

国道15号は目を丸くした。

「ビアガーデンとか、歩行者天国の拡大版みたいに思っていたぜ」

「元々は火災の延焼を防ぐための『火防線』として設置された『後志通』でした。通りの北が

 官庁街、南が宅地・商業地と分かれていました。その後、博覧会の会場になったり、多目的に

 利用されるようになって。公園に整備されて、今に至ります」

さっぽろ雪まつりの会場も大通公園ですね、と国道12号は言った。

「ここだったのか……」

「雪像がたくさん並んでるけど、都会のど真ん中のどこでやっているんだろうって思ってた……」

国道12号と京急本線は、ぐるりと公園を見渡した。

「雪像も最初は数個だったそうですが、だんだん増えてきて。今では200を超えるそうですよ」

「すごい……」

「次はぜひ、冬に来てくださいね。寒いことは寒いので、暖かい服装で」

以前は防火帯であった。とだけあって、公園の緑はずっと遠くまで続いている。こちら側の端には赤いテレビ塔が立っていて、どうやら上層には展望台もあるようだった。

「気になりますか、テレビ塔」

「うん。ちょっと……いや、結構気になるかも……」

「あの展望台、30分、貸切ができるんですよ」

「貸切⁈」

「オプションで花束とかも付けることができて。貸切料金自体は2人で1万円」

「あら……意外とお安い?のね……」

「でも、時計台の方が閉館の時刻が早いので。先に行きましょう」

公園を二区画歩いて、左に曲がる。木と建物の間から、赤い屋根と白い板壁が見えた。

「!」

急に国道12号の歩みが止まった。すぐ後を歩いていた国道15号と京急本線はぶつかりそうに

なった。

「どうした?」

体越しに覗き込むと、そこにはカッコよくポーズを決めて立っている、国道(?)がいた。

「36号。何をしているんですか?」

「客人が来たと聞いて。ここから先はオレがお前たちを案内してやるよ☆」

「……せっかく来てくれたところなんですけど、僕たちこれから時計台を見学して、それから

 テレビ塔の方に戻るんですよ」

「ええッ⁈ここまで来て⁈すすきの方面(国道36号沿線)に来ないで戻る⁈」

国道36号は、ガックリと肩を落とした。

「……あの。テレビ塔は、何時まで入れるんだ?」

京急本線が、助け船を出した。

「21時50分が最終入場です」

「ほら!オレの方に来ても全然余裕!余裕で入れます!」

必死、といった様子で国道36号がアピールする。

「……どうする?京急の」

「まあ、テレビ塔に間に合うなら。行ってもいいかな」

「そうだな」

「ヨッシャァァァァ———ッ!」

国道36号はガッツポーズをした。

「でも、時計台が先な」

「それはもちろん!」

 

「ここが『札幌市時計台』、正式名称は『旧札幌農学校演武場』。札幌農学校は、北大の前進に

 当たる教育機関だな」

国道36号は展示パネルを指し示した。

「『少年よ大志を抱け』の人。と言えば分かるか?あのクラーク博士が演武場の建設を提言した

 んだ。農学校の生徒は北海道開拓の指導者となるべく教育されたから、体力を付けるって目的が

 あったみたいだな。あと、有事の際に屯田兵の指揮官になるから、兵式訓練が導入されたん

 だぜ」

「クラーク博士が在任していたのは約八か月でした。あまり長いとは言えない期間ですが、

 深く影響を残したと言えるでしょうね」

函館本線が付け加えた。

「竣工後の時計台は、一階が研究室や講義室、標本室に。二階は構想通り『演武場』、兵式訓練や

 体育の授業、あとは講堂として入学式や卒業式に使われた。今でこそ『時計』が象徴となって

 いるが、時計塔は後から工事されたもので、建物自体とは三年ほどズレがある」

階段を上がると、大きな文字盤の時計があり、木の長椅子が教会のように整然と並んでいた。

「このでっかい時計は、塔にある時計と同じ会社の製品だ。塔の時計室には入れないが、

 こちらの展示を見ると仕組みが分かりやすいぜ」

「ホールはですね、定員150名程度で貸出もしていまして。音楽会や講演会、あとは結婚式などに

 使われています」

「ほ———ん……」

「雰囲気がありそうだなあ」

「実際、音響がよく雰囲気もあるって人気みたいだ」

国道36号がニヤリと笑った。

「半年前から予約できるからな、ご要望の際はご相談ください」

館内を一回りして、外に出た。夕闇が時計台を包み込んでいくところだった。

「それではすすきのに向かいましょうか。あ、食べたいものがあれば教えてください。今日は

 36号が全て奢ってくれるそうです」

函館本線がにこやかに述べた。

「え?」

「ほら、『案内してやるよ☆』ってさっき」

「いや……その……」

「僕、回らないお寿司が食べたいです」

国道12号がニコニコと笑った。

「36号なら、いいお店を知っていますよね」

「分かった!分かったよ!奢るよ!」

ぶんぶんと手を振り回した挙句に、国道36号は財布を取り出した。

「でも、全部奢るのは客人だけ!お前らは割り勘!な!」

「え~~~」

「『え~~~』じゃありません!」

一向は、また、通りを進み始めた。今夜は長い夜になりそうだ。

​(続く)

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