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・青葉のころ
ED77とED75形700番台(→後のED79)のはなし。
小説版
【小説版・途中まで】
郡山は福島県のほぼ中央に位置し、南北に国道と東北本線が、東西に磐越東線・西線が伸びる交通の要所である。
古くは奥州街道の宿場町が置かれ、現在は県下一の商都、関東の企業が多数進出し、数年先には工事中の新幹線も
停まるようになる。街の中心駅であるこの郡山には五方面の列車が発着し、昼夜を問わず随分と賑わっている。
そんな、勤め人と、買い物客と、旅行者と、生徒たちと、そのほか駅屋を行き交う人々の波の間から、チラチラと
見え隠れする赤い頭が一つ、あった。
初等学校を出たほどの年であろうか。手足に華奢さの残る少年で、少し大きめの赤い外套を着込み、時折立ち
止まっては物珍しそうにあたりを見回している。人の流れを縫うには慣れているらしく、通行人と衝突することは
なかったが、傍から見ればどことなく危なっかしい足取りをしていた。一番ホームに入線してきた列車をしばらく
眺めたあと、彼はふらりと開け放しの扉から車中に消えた。
軽く足音を立てながら、少年……ED75形700番台は真っすぐ座席の間を抜けていく。
一両、また一両と進んだ先、これより前には機関車しかないというどんづまりで、彼の歩みはピタリと止まった。
「初めまして、7兄さん」
窓側の席に座っていた青年は、ゆっくりと頭を上げてこちらを見た。
700番台と全く同じ色の赤い髪の奥から、憂鬱そうな瞳が覗いた。
「……別に、わざわざ挨拶に来なくたってよかったのに」
青年……ED77は、感情の読み取れないような平坦な声で言った。
「兄貴に言われて来たのか?」
「いえ。兄さんは僕に何も言いませんでした」
ED77はそれを聞いて、……なんだか苦しそうな顔をした。
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